偏食ノート トップへ

ホームへ
岩岡ヒサエ 『土星マンション』


最近、自分の中で最もヒットした漫画家が岩岡ヒサエである。
かつて根元敬(だったと思う)は、漫画界は、
9割の手塚系と、1割の水木系で成り立ってると言った。
その見地からすれば、花岡ヒサエは水木系の匂いが強く漂う作家である。

本人のHPやインタビューなんかを読むと、そうでもないような感じだが、
点描の使い方やキャラクターの存在感、へんな生きものの描き方など、
本人が意識しようがしまいが、水木魂がそこには宿っている。
1冊『花ボーロ』を読んだだけの状態で、私は強くそう感じた。

彼女の他の作品を捜すようになり、『しろいくも』を見つけ、
連載ものも読んでみたいと思い、念願だった『土星マンション』を見つけた。
偏食ノートの1発目もこれにしようと思ったのだが、
実際に先に取り上げたのは、同時に買った南Q太の『スクナヒコナ』の方だった。

なぜなら岩岡ヒサエの作品は、消化するのに、少し準備が必要だからだ。
南Q太は以前から知ってるし、自分の中でのポジションもある程度はっきりしている。
『スクナヒコナ』は帰ってすぐ読める特効薬のようなものだが、
『土星マンション』はできるだけこっちも状態を整えて、少しずつ受け入れたい種類のものだ。

岩岡ヒサエという存在は、まだ私の中で怪しげな魅力をぶら下げたまま、
その位置付けを何とも決めかねているのだ。


実は、岩岡ヒサエに興味を持った一番の原因は、
私の知人でマンガを描いていたある人に画風がすごく似ていたからである。
絵の雰囲気がなんだかそっくりで、その幻想資質もよく似てる感じがする。

その知人はフハイファイフェフィーという名前で同人活動をしており、
ホームページは一時yahoo japanの登録サイトにもなっていたので、
もしかしたら御存知の方もいるかも知れない。

現在、以前のフハイ先生のホームページは無くなっていて
私も連絡が途絶えてしまったので、今活動しているかどうかも知らない。
(注)後日、新しいHPらしきものを見つけました。

彼は自分でも水木しげるの影響を自覚していて、岩岡ヒサエに比べると、
よりクセのあるキャラクター、より混沌とした幻想世界を描いていた。

フハイ先生にはウンコを我慢する少女を描いた『ミンコ』という怪作があった。
彼が世にきちんと出れば、水木系作家の一人として確固たる地位を築けたと思うが、
残念ながら、一般向けに創りきれない本人の頑固な作家資質がその道を阻んでいたように感じた。

また彼の周囲にはどうも変なクリエイター環境があって、
作品への感想・批評を与えてくれるというより、ただ良いね、凄いねという感じで受け入れられ、
むしろ商業主義がどうとか、芸術性がどうとかいう類の意見が多かったようだ。

それも私から見たら、ともすれば難解に傾きがちな作品を創る彼にとって、
逆に翼をもいでいたような気がする。

優れた作品というものは、一方的に受け入れ、感受するものでなく、、
他の意識と対等に交わり、刺激しあい、
その人に内容云々を超えた全く新しい世界、価値を生み出させることで、
初めて光を放つものではないか。
作家も他の意識にさらされ、伝え、伝えられることで、
より本来の力を増していくものではないか。

岩岡ヒサエの漫画を読んで、私の頭に浮かんだはそのようなことだった・・・





ともかく『土星マンション』である。
2巻まで出ているらしいが、入手したのは1巻のみだ。

連載もので、しっかりした連載設定のため、本来の幻想性はいくぶん薄れてはいるが、
その分、絵の細やかな部分にまで作家性が直に現われており、
より遠く拡がりを持った世界になっていると思う。

しかし、これだけの幻想資質を失うことなく、ここまで一般化に成功したというのは
おそらく水木先生以来の珍しい例ではないだろうか


設定自体は『プラテネス』を思い起こさせる形である。
しかしよりSF色が強く、またその割に絵柄自体がSFには馴染みのない感じなので、
結果的に独自色の強い、不思議な雰囲気を醸し出しているように思う。

物語的にも連載漫画という事で、良質なストーリーを提供してくれようとしている。
でも私は、そのまともな漫画っぽくあろうとする部分に、
なんだか、よそ行き姿の気恥ずかしさを、少し感じたりするのであった。

でもこんな風に思うのは私だけで、多くの人はもっと普通に、
ほのぼの系のハートウォーミングな漫画だと思うのかも知れない。
勝手に水木系なんて言ってるのが、そもそも迷惑な話であるだろうし。


あと彼女の漫画で印象に残るのは、
キャラクターがちょっと怒ったときに描かれるあの背景のもわもわ感だ。
妙に可愛くて、ツボにハマる。ああいう怒り方を描かれると、
無条件で作者を好きになってしまうではないか。





(この項、2巻を読んだら加筆予定)